決定版ＡＩ人工知能

著者は、「『風が吹くと桶屋が儲かる』ではないが」 と控えめな表現をしていますが、AIを活用した社会の実際は、『風が吹くと桶屋が儲かる』と同等もしくはそれ以上の連鎖的な変化が爆発的に起こり、われわれの生活は本当に激変するのではないかという気持ちにさせられました。たとえば本書では、自動運転の実用化が急ピッチで進んでいることに複数のページを割いています。 この中で、自動運転車は交通ルールを絶対に破らないので、交通取り締まりの人件費が減ることに言及しています。こうなれば、警察の組織の運営のあり方が変化してくるでしょう。また飲酒運転がなくなるので、酒造メーカーや飲食店の経営戦略も変形する可能性があります。 お酒の消費量が増えれば、栄養管理の方法も変化するかもしれません。また自動運転車はサイドミラーを使わずカメラを搭載するので、空気抵抗が減り、燃料費を抑えられる...。自動運転車一つとってもこの変化。 ある一つの分野の革新が、社会や産業の構造を変えるかもしれないわけで、これが医療や製造や教育や営業にまで利用されたらどうなるかということになると、ほとんど想像を超えていると思いました。「人工知能」 と聞かされても、自分のしている仕事や、生きている空間の変化にばかり気をとられ、社会や世界全体に及ぼす影響にはなかなか想像力が及びませんでしたが、芋づる式に起こる変化に気付かせてくれるヒントがいくつかあり、たいへん参考になりました。ただし、機械学習やビッグデータの解析方法などに関する技術的な側面にはほとんど触れられていないので、そちらについての知識が欲しい方にはまったく向いていない本だと思います。そういう意味で、「決定版」からは乖離があると感じたのでホシ３つ。