「平成日本サッカー」秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた (講談社+α新書)

間違いなく、ここ数年で読んだサッカー関連の本の中でダントツのNo.1。情報量が豊富で、これまで語られなかった角度から世界と日本のサッカーの50年を描いている。この本は古河電工という超一流企業の経理屋だった小倉さんが、類書の全くない経理からみたサッカー界の内情を描いてくれています。世界のサッカー界のことはそれほど詳しくはないのですが、「第八章 黒いワールドカップ FIFAスキャンダル」「第九章 平成サッカー人からの遺言状」だけでも英語のテスト版を出版してみてはどうかと思うほど。「平成の時代、うまくいったのは理系とサッカーだけ」という岡本全勝さんの言葉だけでも面白いというか、常識的ないち日本の勤勉なサラリーマンが献身的にサッカー界のために尽力し、それが世界でも認められてFIFA理事を退任した翌年、功労賞を授賞した姿というのは「日本人の勤勉さ、熱心さ、緻密さ」(p.268)を評価されているようで、嬉しく感じます。また、バブル期の末期にＪリーグとＷ杯招致活動をやれたのは本当にラッキーだったな、と改めて思います。多くの書評は前半だけしか紹介していないと思いますので、むしろ後半から、少なくともぼくが初めて知ったことを書いていきたいと思います。1)サッカー日本代表は一時期、年代別世界選手権になかなか出られなかったのは、明らかにオッサンの選手を中東が出していたからで、MRIによる骨年齢測定を「宗教上の理由から受けられない」と反対する国を押し切ったのは日本。2)FIFAのスキャンダルを暴いたのはＷ杯招致で負けた米英がメディアとマネロン経由でFIFA理事を追い詰め、FBIは脱税で目をつけた人物におとり捜査に協力させて動かぬ証拠を握った3)米国は北中米カリブ海の国々の一票にいつもやられていたが、オーストラリアがAFCに加盟したのもニュージーランドと周辺の島国がくっついて対抗していたことにイヤ気がさしたことが原因(p.258)4)Ｗ杯アジア最終予選の放映権料はAFCが一括管理して、他の協会はこの放映権料で潤っているそうで、これを「それぞれの協会に帰属させよ」という日本、韓国、サウジの提案は総会で大敗(p.262)。5)Ｗ杯開催地の決定は《ありていにいえば、過半数として十数人の理事を味方につければいいのだから、そのすちの何人かをおカネで買うことなど安いものだと思うような輩が出てきても不思議はない》(p.250)このほかマンチェスター・ユナイテッドのシャープ、リバプールの日立、アーセナルのJVCなどの胸スポはいずれも初の試みだったのも初めて知った。胸に企業名を入れるのは日本リーグが企業チームだったのヤンマーなどの企業名が入ったのを逆輸出した、という話しも初めて聞く(p.84)。